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「おかしいだろ、こんなの。どうしておかしいことに気付かないんだ。どうしてそんなことを言う神を信じられるんだ」
「──おい、こいつ、トナ教徒じゃないな?」
だから何なのだ、と言おうとしたときにはもう遅い。ギノの腸は煮えくりかえって、抑えが効かない。
「黒魔法使いは何も悪くない。悪いのは勘違いしている人間の方だ!」
叫んだ時にはもう、体の自由が奪われていた。旦那、と呼ばれた男以外の二人が、ギノを左右から押さえつける。いつの間にか、他の客もギノの方を訝しげな表情で見ている。
「旦那。どうします?」
「そんなもの、決まっている。ころ――」
「あら。殺しちゃうの?」
険悪な空気の中に似合わない、明るい声が旦那の言葉を遮る。ギノはかろうじて動く首を、その声の方向に向けた。
カウンター席に座っている、明るい茶髪の女だ。彼女は白っぽい金色の瞳を輝かせて、こちらを興味深そうに見ている。
「なんだ、お前は」
ギノの右半身を捕らえる男が尋ねる。女はにやりと笑う。
「その子の情報。買わない?」
「情報……?」
ギノは思わず首を傾げた。彼女とは初対面のはずだし、何より、ギノの情報でめぼしいものなどない。あるとしたら、黒魔法使いと旅をしているくらいか。
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