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「悪いけど、今貸せる馬は一頭なんだ」
「じゃあ一頭でいいよ。妹は俺と一緒に乗せられるから」
「おお、そちらは妹さんかい。いくつだい?」
「まだ10にもなってないよ。ほら、おじさんにお礼は?」
「……ありがとう」
「ちゃんと礼の言えるいい子だなぁ」
当然だ。ミレナは10どころか、もう20近いのだから。
そう言いたいのを堪えて、なんとか笑ってみせる。ニズがニヤニヤしながらその様子を見ているのが気に入らない。趣味の悪い奴だ。
二人が今来ているのは、サオットの町の外れの厩舎。各国に展開している貸し馬屋であるらしく、借りた馬は他国の店で返せばいいという。この情報は、昨日のうちにニズが宿屋の女将から聞き出したものだ。
「じゃあ一頭な。気を付けて行けよ。昨日だったか、罪人を乗せた馬車が通っていったから」
「!」
ミレナが思わず声を上げそうになるのを、ニズが背中で隠してくれる。このときばかりは、自身の低い身長に感謝した。
「罪人。昨日噂で聞いたよ。トナ教に反発したんだって?」
「俺も聞いた話だけど、そうらしいな。しかも若い兄ちゃんらしい。許してやってもいいと思うがなぁ」
厩舎の男はうーん、と首を傾げた。
彼の話がギノのことであるならば、ギノは昨日のうちにここを通ってコンニル公国に向かっている。ミレナ達がここから町を出ようとしているのは間違いではなかったということだ。
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