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「ま、ここじゃトナ神が絶対だからな」
ニズが簡単に締めくくって、ミレナを抱え上げて馬に乗せ、その後ろに飛び乗った。手綱を握って何度か馬の体を撫で、調子を確かめた。
「じゃあ、ありがと。借りてくよ」
「おう、気をつけてな。お嬢ちゃんも元気で」
厩舎の男が手を振って見送るので、何も握るもののないミレナは手を振り返す。ニズが馬を巧みに操って向きを変える。
「落ちるなよ」
「落とすなよ」
「偉そうな妹だこと」
軽口を叩きながらも、ニズの腕に挟まれた形になっているミレナが落ちる可能性はほとんどないだろう。速度はあるもののニズの扱いがうまいのか、揺れはほとんどない。
それにしても、ミレナにはやることがない。退屈だ。
「暇だったら寝ててもいいぞ?」
ニズが言うが、馬の上で寝られるだろうか。それ以前に、ニズが馬を操っている中、一人で寝るのは抵抗がある。
じゃあ交代制にするか、と言いたいところだが、ミレナの体ではニズを乗せたまま馬を操るのは不可能だ。ここではニズに任せるしかない。
「……すまないな」
「何か最近素直で調子狂うなあ。変な物でも食ったか?」
「私の食べたものは大抵お前も食っているだろう」
「確かに」
結局ミレナは寝ることなく、ニズと他愛もない話をしながら馬に乗っていた。
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