第5章

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*  身動きがとれなかった。  視覚と聴覚を奪われなかっただけマシかもしれないが、脱出の手段はゼロに近かった。 (コンニルの統治者? 貴族?)  ギノの頭の中はそれで一杯だった。理解が追い付かない、というより、信じられない。父ノストは、そんなことを一言も言わなかった。  しかし、自分がミラ王国の出身ではないのは知っていた。  ギノは5歳の時に引っ越しをしている。ただし当時は国名など知らなかったので、自分がどこで生まれ、どこに向かい、どこで過ごしていくのかなどわからなかった。  5歳までの記憶は、残念ながらもうほとんどない。覚えているのは父と母の顔くらいだ。 (生まれがコンニルで、しかも貴族?)  ギノを縛った男──旦那と呼ばれていた彼だ──は、ギノをどうするつもりだろう。  アグメンの家に帰すのか。  帰されたところで、ギノはコンニル公国を治められない。コンニル公国のことなど何一つ知らないし、そもそもこんな若造が統治者などと言ったところで国民の誰が信用するだろう。 (どうすればいいんだよ)  ギノが知っている情報は、自分がアグメン家の人間であった、ということと、アグメン家はコンニル公国を治める貴族であるということ、そして、コンニル公国には今統治者がいないことだけだ。 (父さん)  今コンニル公国を治めているはずの彼が、なぜミラ王国にいるのか。それすら、ギノは知らないのだ。
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