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結局、怖かったのだろう。ハンターという名の正義の傘の中で剣を取り、その手を穢すのが。
ギノは黒魔法使いと、先程から妙な動きをして、そのままここに残っている男――どうやら掏摸を働いていたらしい――から視線を向けられ、曖昧に笑ってみせた。
「悪くない、とは――」
「――まだいるぞ! こっちだ!」
「!」
そう遠くないところで、野太い声が上がる。掏摸犯の捜索を諦めたらしい男たちが戻ってきたようだ。
「俺は逃げるけど、アンタらはどうする?」
掏摸男は袋をしまいこんで、辺りを見回す。ギノがここに残れば、黒魔法使いを殺さずにいたことを詰られるかもしれない。レボウンドの仲間も、戻ってくるだろう。
「俺も逃げる」
「そ。君は?」
黒魔法使いは一拍おいてから、突然ギノと掏摸男の手をつかんだ。
「ちょっと、何を――」
「逃げる」
「男二人連れて? 見かけによらず大胆だね」
掏摸男が軽口を叩いたところで、捕まれた手に力が込められ、体が宙に浮く。
「え――うわああ!」
「出血大サービス?」
「無駄口を叩くなら容赦なく落とす」
「横暴だこと」
凍った噴水がどんどん離れていく。広場に集まってきた男たちは、上空には目を向けずに黒魔法使いを探し続けている。
丘の上の酒場を見下ろす。人を殺める魔術を使うはずの黒魔法使いから、逃走の手助けを受けている。
ギノの世界が、ゆっくりと開けていく。
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