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「悪いけど、俺には無理だよ……。自分の正体もわからない、この国のことも知らないのに……」
わからないことだらけで逃げ出したくなる。どうしてこんなことになってしまったのか。ギノが騒動を起こしたせいか、酒場の女が情報を流したせいか。
「そもそもどうして、コンニルの統治者がいなくなったんだ?」
コンニル公国の統治者。今治めているはずのギノの父は、なぜここにいないのか。ギノはその理由を知らない。
「それは、俺らも知らないんだ」
「知らない?」
「前当主が死んだ直後、急にいなくなったんだ。次期当主は。そんな素振り、なかったのに……」
彼らの話をすべて信じるなら、父ノストは、前当主――ギノにとっての祖父に隠れて国を出たことになるのか。
「……父さんに聞けば、わかるのか」
コンニル公国を大不況に追い込んだ元凶。
ギノは父のことを、どう思えばいいのだろう。
「ああ、聞いてくれればいい」
「え……?」
背後から聞こえてきたのは、ここに居るはずのない、懐かしくもあり、いつも聞いていた穏やかな声。
振り返れば、ギノと同じ金色の髪が風に揺られ、ギノと同じ青色の目が彼を捕らえる。
「父さん」
「久しぶりだな、ギノ」
やさしい笑みを浮かべる父に対して、ギノはどんな表情をしていただろう。顔の筋肉がうまく動かせなかった。
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