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「外で話すようなことでもない。家に入ろう。君たちも一緒に」
父ノストは、ギノの手にかけられた縄を、腰に提げた剣で簡単に切り落とす。解放された手を子供みたいに握られて、されるがままに邸宅に足を向ける。
旦那達も、戸惑いながら後を追ってくる。
門をくぐり抜け、庭を過ぎ、鍵のかかったドアに対峙したとき、ノストは懐からさびた鍵を出して、鍵穴に挿し込む。
かちゃり。嘘みたいに簡単に開いたドア。
「本当にノスト様なんですか……?」
旦那が信じられないというような声音で、恐る恐る尋ねる。ノストは全員を家に入れてから、にこりと笑った。
「久しいな、ワント、モンド、グドー」
「! ノスト様、覚えて……」
ノストは迷うことなく三人の名を呼んだ。
「覚えているさ。……迷惑をかけた」
ノストが頭を下げると、三人はお互い顔を見合わせて、困惑の表情を浮かべている。さっぱり話についていけないギノは、呆然と立ちすくんだまま動けないでいる。
「ノスト様。……お話を聞かせてください。なぜ国を捨てて行ってしまったのですか」
代表して旦那――ワントが尋ねる。ノストは顔を上げてから頷いた。
「長い話になる。食卓に行こう」
慣れた足取りで、ギノ達を食卓へ導く。少し歩いた先の部屋に無駄に長い机が現れて、ノストは適当な椅子に腰掛けた。
全員がそれに倣って椅子に座ると、ノストは一言一言慎重に、過去を紡いだ――。
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