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「……外に出たい」
「その本を片付けてからです」
「一日で読めるか、こんな量」
「読んでいただかなければ困ります。ノスト様は次期当主なのですから、それなりの教養は必要です」
――何が、次期当主だ。子供に恵まれなかっただけの癖に。
ワントが食事の支度をすると言って部屋を出て行く。他の使用人もこの時間は出払っていて、私室にはノスト一人となった。
「厳しいんだか甘いんだか」
ノストは読んでいた本を山に戻し、窓を全開にした。ここは三階の部屋だから、ここから飛び降りれば無傷では済むまい。
しかしそれは、何もなしで降りた場合、だ。
ノストは机の引き出しから、長いロープを出す。その片端に重りをつけ、窓の下に固定する。そしてもう片端を輪にしてから、ノストが持てる腕力の限りを尽くして窓の外に投げた。
輪は見事に、庭の高い木に引っかかる。ノストはそのロープを伝って、木に渡った。護身術として剣術と体術だけは真面目に受けていたので、それくらい容易いことだ。
木の天辺から、使用人に見られていないかを確認する。どうやら大丈夫そうだ。ノストは木の幹にしがみつきながら地上に降りる。
(これで町に出られる)
ノストはこの日初めて、コンニル公国の景色を見ることになった。
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