第5章

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「……外に出たい」 「その本を片付けてからです」 「一日で読めるか、こんな量」 「読んでいただかなければ困ります。ノスト様は次期当主なのですから、それなりの教養は必要です」  ――何が、次期当主だ。子供に恵まれなかっただけの癖に。  ワントが食事の支度をすると言って部屋を出て行く。他の使用人もこの時間は出払っていて、私室にはノスト一人となった。 「厳しいんだか甘いんだか」  ノストは読んでいた本を山に戻し、窓を全開にした。ここは三階の部屋だから、ここから飛び降りれば無傷では済むまい。  しかしそれは、何もなしで降りた場合、だ。  ノストは机の引き出しから、長いロープを出す。その片端に重りをつけ、窓の下に固定する。そしてもう片端を輪にしてから、ノストが持てる腕力の限りを尽くして窓の外に投げた。  輪は見事に、庭の高い木に引っかかる。ノストはそのロープを伝って、木に渡った。護身術として剣術と体術だけは真面目に受けていたので、それくらい容易いことだ。  木の天辺から、使用人に見られていないかを確認する。どうやら大丈夫そうだ。ノストは木の幹にしがみつきながら地上に降りる。 (これで町に出られる)  ノストはこの日初めて、コンニル公国の景色を見ることになった。  
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