第5章

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(さすがに、貴族が多いな)  ノストが邸宅を出てしばらく歩くと、建物が建ち並ぶ町に出た。アグメンの土地と比較的近いこの地域の土地を買えるのは金持ちだけだ。……と、ワントから聞いたことがある。  歩く民も、並ぶ家々も、きらびやかで目眩がする。自分の服も負けじと宝石で飾られているのだが、ここでは目立ちもしない。  ついでに、ノストがアグメンの者であると気づく者は居ないようだ。外に出たことがない分、知名度は0に近いのだろう。  外に出ようと計画して3年ほど。邸宅内は大抵移動が許されていたので、ちょうどいいロープを探し当てたのは最近の話だ。なんせ、家に居る間は勉強だなんだと使用人がつきっきりで、一人で探す時間がなかったのだ。 (やっと出た外だ。何か面白いものはないものか)  ノストは好奇心丸出しで、町中を歩いた。私室に鍵はかけてあったが、食事の時間に私室にいなければ大事になるだろう。ノストに与えられた自由時間は少ない。 「! っと……失礼」  辺りをキョロキョロと見ながら歩いていたせいで、人とぶつかってしまった。すぐに謝ると、ぶつかったその人は、何も言わないまま顔を上げた。 (わ……)  顔を上げたその人は、恐ろしいほど澄んだ茶色の瞳でノストを捕らえていた。流れる同色の髪は長く艶やかで、彼女の腰ほどまである。しかし服装は妙に質素で、ここでは目立った。
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