第5章

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「──それで、こちらが宝石商様の家です。向かいには織物職人様がいらっしゃいますから、お召し物はこちらで揃いますよ」  彼女は楽しそうに通りを紹介して歩く。貴族の多い町だからか、高級店ばかりが立ち並んでいる印象だった。 (それにしても彼女は……)  宝石商だの、服飾だの、皮革だの。  そういった場所に行く度に目を輝かせている。  そして目につくのは彼女の質素すぎる格好。 (貴族では……ないのか?)  だとしたらなぜこの町にいるのだろう。平民が手を出せるような商品は置いていないはずだ。勿論、住めるような家もないだろう。 「それであちらが──どうかなさいましたか?」 「あ、ああ」  考え事をしていて彼女を思わず凝視していたらしい。不思議そうな目を向けられて思考を中断して、思いきって尋ねてみることにした。 「名前を教えてもらえないか、と思って」 「私ですか。ロダと申します」 (家名がない)  敢えて名乗らなかったのではないだろう。彼女は姓を持たない、やはり平民だったようだ。 「私も、お名前を聞いてよろしいでしょうか?」 「私は──」  ノスト・ヘンス・アグメンの名を出せば、ロダはどのような反応をするだろう。  アグメンの者と知れば、もう会えないかもしれない。
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