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木を登ってロープを伝い、窓から私室に戻る。服の汚れをさっと払って、ロープを部屋に回収した。窓が閉められていなかったところを見ると、使用人の誰にもバレてはいないらしい。
(ロダ、か)
結局、貴族ではないであろう彼女が、貴族だらけの町にいる理由は聞けなかった。帰り道はただ、今日見た店の目玉商品だの、最近の天気だの、他愛のない話ばかりをしていた。
(また聞けるだろうか)
そう思ってから、自分がロダにまた会えることを信じきっていることに気が付く。
そして、自分がロダに会いたがっていることも。
「──!」
自覚した瞬間、顔から火が出ているのかと錯覚するほど体温が上昇する。適当に開いた本で誰にともなく顔を隠した。
(なんだ、それは。それではまるで)
言葉にするのも躊躇われるような単語が頭の中にちらつく。そんな経験は1度もしたことがないので、ノストはその感情への対処の仕方がわからない。
「ノスト様。お食事の時間です」
扉がノックされる。鍵が閉まっていてよかった。こんな顔を、誰にも見せられない。
「……今、行く」
使用人の声に返事をして、本を閉じる。鏡に向かい合って、いつもの表情を作り直してから廊下に出る。
「…… ノスト様。何だかお顔が赤いようですが、大丈夫ですか」
呼びに来た使用人のモンドが不思議そうに顔を覗き込む。ノストは顔をそらして、なんでもないと断って彼を抜き去った。
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