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ロダは昨日とは違うルートを紹介してくれた。人通りがあまりなく、静かな道なので、彼女やノストの声が喧噪にかき消されることもない。
「ノスト様はこの町に、何のご用があっていらしたのですか?」
ロダの質問に対する返答に困ってしまう。
「町並みを見てみたかったから、か」
迷いつつも素直に答えてみる。嘘はついていない。今まで邸宅から出たことがなかったから、という部分を省いただけだ。
「それを言うならロダ、君は?」
「私ですか?」
「見たところ、失礼だがこの町の住民ではないように思われる」
聞きたかったことを聞いてみる。ロダはそう見えますか、と笑ってから、少し歩を緩めて答えた。
「私はここに住む貴族様の使用人です。主に買い出しを任されています」
「使用人……」
驚いた。
アグメンの使用人は、姓を持つ貴族が多い。言い方は悪いが貴族の中でも下位層の貴族だ。一般に平民は文字の読み書きができないので、使用人としては不自由だとされるからだ。
姓を持たない使用人も、いないことはない。が、ノストは会ったことがない。少なくともアグメン家においては、直接貴族と関わる使用人は貴族と定められているのだ。
──そして姓を持たない使用人は、過酷な労働を強いられることも多いと聞く。
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