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降ろされたのは、騒ぎのあった広場からは離れた港だった。離れた、とは言っても、港町ルレベルク内であることに変わりはないので、黒魔法使いがいるということがここまで知れ渡るのも時間の問題だろう。
「国を出るのか?」
「――私は、もうここにはいられない。お前たちはどうする」
黒魔法使いは二人から手を離して、二人の顔を見つめた。そこまで背の高くないギノよりも頭一つ分小さな彼女から顔を見られると、上目遣いに睨まれているようにしか感じられない。
「俺はついてくよ。アンタの話が聞きたい」
掏摸男は笑って黒魔法使いの頭に手を載せた。黒魔法使いが無言でその手を払いのけると、掏摸男は「つれないなあ」と言って、眉を下げて笑った。
ギノはその様子を見ながら迷っていた。ここから家に戻れば、両親やレボウンドの仲間と一緒に、またいつものような生活が再開する。――ハンターとは名ばかりの、雑用をこなす傭兵に戻るのだ。
逆に、このまま二人についていったら? ギノはしばらく家に帰れない。両親も、仲間たちも心配するだろうか。どこかで力尽きたと思われるだろうか。そういえば買い出しを終えていないから、次の仕事に影響してしまうかもしれない。
でも、ギノはまだ彼女の話を聞いていない。なぜ手助けをしてくれたのか。それに対しての礼もまだだ。
「俺も行く」
狭かった自分の世界が、また開けた。
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