第2章

9/20
前へ
/460ページ
次へ
 ミレナがなんだ、と問い返した時、船が汽笛を鳴らして出発する。ガタリ、と大きく揺れて、しばらくすると穏やかな波の音が聞こえてきた。  これでもう、ミラ王国へは、港町ルレベルクには、傭兵団レボウンドには、家には、戻れなくなったわけだ。 「……で、なんだ?」 「ああ、うん。聞きたいことがあるんだ。魔法について」 「魔法」 「ミレナは、あの噴水を凍らせようと思って魔法を使ったのか?」 「…………」 「俺には、そういう風には見えなかった」  ミレナの横顔を見たとき。彼女の表情は憂いに満ちていたように感じた。  ミレナの呟きを聞いたとき。彼女の声は悔しさをにじませていたように感じた。  そして今の発言。「使ってしまわないとは限らない」。  彼女が意図的に魔法を使ったのなら、こんな表情は、言葉は、出てくるものだろうか。 「……今から話すことに嘘はない。人間が今まで、知り得なかったであろう、黒魔法使いの真実だ」  ミレナの声が小さくなる。それでも芯の通った声は、ギノにとっては十分信用に足るものだった。しっかりと頷くと、ミレナは二人の顔を見てから、絞り出すように言った。 「黒魔法使いが魔法を使う条件は二つだ。一つは、意図的に。二つは、無意識に」 「……無意識?」 「感情の大きな変化で、魔法が勝手に発動してしまうことがある」
/460ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加