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ミレナがなんだ、と問い返した時、船が汽笛を鳴らして出発する。ガタリ、と大きく揺れて、しばらくすると穏やかな波の音が聞こえてきた。
これでもう、ミラ王国へは、港町ルレベルクには、傭兵団レボウンドには、家には、戻れなくなったわけだ。
「……で、なんだ?」
「ああ、うん。聞きたいことがあるんだ。魔法について」
「魔法」
「ミレナは、あの噴水を凍らせようと思って魔法を使ったのか?」
「…………」
「俺には、そういう風には見えなかった」
ミレナの横顔を見たとき。彼女の表情は憂いに満ちていたように感じた。
ミレナの呟きを聞いたとき。彼女の声は悔しさをにじませていたように感じた。
そして今の発言。「使ってしまわないとは限らない」。
彼女が意図的に魔法を使ったのなら、こんな表情は、言葉は、出てくるものだろうか。
「……今から話すことに嘘はない。人間が今まで、知り得なかったであろう、黒魔法使いの真実だ」
ミレナの声が小さくなる。それでも芯の通った声は、ギノにとっては十分信用に足るものだった。しっかりと頷くと、ミレナは二人の顔を見てから、絞り出すように言った。
「黒魔法使いが魔法を使う条件は二つだ。一つは、意図的に。二つは、無意識に」
「……無意識?」
「感情の大きな変化で、魔法が勝手に発動してしまうことがある」
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