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酒場、兼自宅のある丘の上は、景観がいい割に住宅の数はまばらだが、丘を下って市街地に近づくにつれて見える屋根の数がどんどん増えていく。同じように人の数も増え、活気付いていくこの変化を、ギノは気に入っていた。
商売敵である酒場もやはりこちらの方が客の入りがいい。家は上でもいいから、店は下に出せばよかったのに、とギノが愚痴っぽくこぼしたとき、経営者である両親はそんな金があったもんかと笑いながら軽い拳骨を頭に落としたのをよく覚えている。
市街地は海に近く、船で運ばれてきた異国の品が多く出回っている。快晴で波も落ち着いている今日は、逞しい船乗りたちが多数、市街地に荷運びをしているようだ。
ギノは逞しいとはとても言えないような細腕で人混みをかき分けながら、レボウンドが贔屓にしている雑貨屋に足を踏み入れた。
「……ギノか、いらっしゃい」
入って正面に座る老婆がしゃがれた声でギノを歓迎する。しわくちゃな顔は表情を読み取りにくいが、本数の少ない歯を覗かせているので、恐らく笑っているのだろう。
「こんにちは」
「今日も負けたのか」
「……たまたまだよ」
「どうだかなあ?」
老婆は呵々と笑い、木製のカウンターに肘をついた。ギノは笑い声を聞かなかったことにして店内を見渡した。
窓の少ない店内は外に比べてかなり暗い。開け放しの出入り口から入る日光を頼りに目当ての品を探す。
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