第1章 

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 右側の壁には大剣や弓が掛けられ、横の棚には瓶詰めの傷薬や携帯食料。更に視線を動かせば、紙や黒鉛、老人用の杖もある。ついでに反対側の壁も見てみると、気味の悪い頭でっかちの人形や、髪色を変える塗料、古びた本などが置いてあったりする。統一感などあったものではない。まさに雑貨屋である。  逆に言えば品数は多いので、大抵のものはここでそろう。今日はレボウンドの次の仕事である野獣狩りに必要なものを買いに来たので、まずは傷薬から見よう、と足を向ける。 「また雑用仕事かい」  老婆がギノの背に向けて声をかける。ギノは傷薬の品定めをしながら口を開いた。 「んー、雑用って言えば雑用だけど、大切な仕事だよ」 「大切な仕事、か。よく言えたもんだ。お前さんはいつの間に本業を傭兵に変えたんだい」  老婆の声に呆れが混じり、ギノは手を止めて振り向いた。彼女は髪と同様白くなった眉毛と、色の悪い唇の端を下げて、先程とは比べものにならないほどわかりやすい表情を作った。そのあまりの違いに背筋が冷える。 「ハンターなんて名ばかりで、結局黒魔法使いの首を取る覚悟なんてないんだろう」  冷め切った声音がギノを貫く。思わず握りしめた拳が汗ばんでいるのがわかる。老婆の細く、それでいてすべてを見透かすような目が怖くて視線を下に向ける。
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