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腕力にはそれほど自信はないが、脚力はそこそこ自慢できる。ある程度走ったところで、黒魔法使いが現れたであろう場所から狼煙があがった。ギノは人々を抜き去ってその方向に向かう。
ここからそう遠くはない。中心市街の中でも中心にある広場であろう。ここミラ王国にはよくある設計の広場で、噴水の周囲を店や住宅が円形に囲んでいる。
「……あれ……?」
広場に近づくにつれ、妙な冷気に身を包まれる。ミラ王国は年中温暖な気候なので、ここまでの寒さを感じたのはいつぶりかわからない。全身を伝う汗に冷たい風が吹き付けて体温を奪っていく。ギノは更に速度を上げる。
「おい……あれ……」
「嘘だろ、黒魔法使いがやったのか?」
近くを走っていた男たちが、前を見て足を止める。ギノもそれにつられて、速度を上げるために前に傾いていた体を起こして正面を見た。
「凍ってる……!」
ギノは愕然として、ついに歩を止めた。先程から漂う冷気の正体が見て取れた。
人垣の向こうには目的の広場。その中心には、背の低い茶髪の女と、時の止まった噴水。水が噴き出し、その流れで人々を楽しませるはずの噴水が、ピタリと動きを止め、氷付けにされている。
噴水を凍らせたのが誰か、という問いの答えは、誰の目にも明らかであった。
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