落ちる瞬間

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 おはぎは、あたしが中学生の時に拾った仔猫だった。命名はあたし。あんこみたいに真っ黒だから、おはぎ。  まだ目も開いてない内に拾ったから、どうも自分を人間だと思ってる節がある。  でもツンデレな所はやっぱり猫で、絶対に抱っこはさせてくれなかった。     *    *    *  猫が好きなあたしは、当然というか、高校生になって猫型男子の斉藤くんに恋をした。ツンデレで、たまに何かの拍子に話が盛り上がる事があったけど、いつもは男子とだけ話す、硬派な感じの男の子だった。 「お。中島、猫飼ってんの?」  身長はあたしとあんまり変わらなかったけど、変声期を終えた低い声は、凄く『男』って感じがしてドキリとする。それが、あたしにかけられた。 「え? う、うん」  スマホのロック画面の画像は、おはぎ。  LINEのチェックをして何気なく机に置いたら、それが斉藤くんの目に入ったらしかった。 「俺んちも前、猫飼ってたんだよ。そういう、黒猫」 「えっ? そうなの? 何て名前?」 「クロ。黒いから」 「あはは。うちの猫も、黒いからおはぎってつけたんだ」 「可愛いよな、黒猫」 「うん。不吉だなんて都市伝説あるけど、めっちゃ可愛い」  嗚呼、たまにくる『デレ』だ。その切っ掛けがおはぎだった事に、あたしは密かに心の中で感謝する。  斎藤くんが、少し遠い目をして言った。 「でも去年、死んじまったんだ。物心つく前からずっと一緒だったから、悲しかったなあ」 「あ、そ、そうなんだ。ごめん……」 「中島が謝る事はねぇよ」 「でも。思い出させちゃって、ごめんね」  猫みたいに切れ上がった精悍なまなじりを笑みの形にしならせて、ふいに斉藤くんが微笑んだ。 「なあ、中島んちの黒猫に、会いに行っても良いか?」 「えっ!?」 「駄目か? 黒猫って探しても、居そうで居ないんだよな。クロが懐かしい」  何これ何これ! 究極のデレ期きたんですけど!  あたしは火照る頬がバレないように、次の授業の教科書なんかゴソゴソ探しながら、何でもない風を装って言った。 「良いよ。今日来る?」
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