落ちる瞬間

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    *    *    *  家族に見付かったら、きっと「彼氏?」だなんて訊かれて台無しになってしまうから、あたしは放課後、コッソリ斉藤くんを家に招待した。お婆ちゃんの代からの古い一軒家は、壁が薄い。ひそひそと、声をひそめるように話す。 「斉藤くん、連れてきたよ。この子が、うちのおはぎ」  抱っこは嫌がるから、しなやかな胸を抱えるようにして部屋に連れてくる。 「わあ。クロそっくりだ」  硬派な斉藤くんは学校でも、普通の男子がするくだらない猥談や悪ふざけをしない。だから、こんな風にくしゃっと破顔する所は初めて見た。  へええ……普段は格好いいのに、笑うと可愛いんだ。  そんな風に見とれていると、斉藤くんはおはぎを膝に乗せた。 「あ……」  おはぎはとにかく、抱っこが大嫌い。引っかかれてしまうかもと止めようとしたけど、何とおはぎは大人しく斉藤くんの膝の上に乗り、顔をよく見るように顎を上げた。 「あ、オスなんだ。クロは、メスだった」 「そうなんだ」  おはぎは黙って、斉藤くんの顔を見上げている。その喉を、長い指がかいた。 「可愛いな~」 「可愛いのは、斉藤くんだよ」 「え?」 「あっ! な、何でもない、ごめん!」  いけない、いけない。心の声が漏れちゃった。 「中島……もしかして猫、ダシにした?」 「え?」  今度はあたしが問う番だった。 「ひょっとしてだけど……俺の事が好き、とか」  え、え。どうしよう。身体中が心臓になったみたいにバクバクする。隠そうとしても、耳の先まで赤くなってしまう顔色は、隠しきれなくて。  えーい、こんなチャンス、もうないかも! 告白しちゃおう! 「……うん、そう。あたし、斉藤くんの事……ずっと、好き、なんだ。だから猫好きな所も一緒で、嬉し……」 「最低だな」 「……えっ?」  さっきまで緩んでた猫目が、冷たく鋭いつららのように、あたしを射貫く。 「動物をダシにして誘うなんて、最低だな。スマホの画面見えるようにしたのも、わざとか? ハッキリ言ってキモい。俺、帰る」  事態が理解出来ずに呆然としてるあたしを残して、斉藤くんは立ち上がった。その膝の上から、ピョンとおはぎが飛び降りる。  普段、あまり猫らしく鳴かないおはぎが珍しく、ひと声にゃあと鳴いた。
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