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Ⅰ.
温かい陽射しを受けたコンクリートの床は、程よく温まり眠気を誘う。太陽光を反射する綺麗な銀髪の少女は、細い身体には似つかわないゴツい軍服を纏っている。袖に縫い付けられている紋章を見ると、彼女が少尉であることが伺われた。
「あったかいなぁ」
少女の声は見た目より少し低かった。あまり感情の籠らない話し方で、左右で違う色を持つ目を細めた。
「コラ! また授業サボって!」
屋上の門扉が勢いよく開かれ、長い赤茶色の髪を激しく揺らす長身の女性がやって来た。少女……とは形容がもうできなさそうな歳ではあるが、銀髪の少女とそこまで歳は離れていなさそうだった。
「お姉ちゃん!」
怒られていることを感じ取れないのか、勢いよく銀髪の少女は起き上がる。その時に思い切り床をはねたからか、耳に不愉快な金属音が響いた。
「どうしたの? 仕事は?」
「サボっている生徒を指導するのも仕事よ」
お姉ちゃんと呼ばれた女性の拳が少女の肩を殴る。ゴーンッと金属と金属がぶつかる鈍い音がした。
「痛い」
「痛くないでしょ」
「うん。でも接続部分に響く……。それにまた壊したらナギさんに怒られちゃうよ」
「ソラはまず、あたしに怒られるんだけど?」
「まぁまぁ。そんなカリカリしないで。こんなにも天気がいい日に座学なんて勿体ないと思わない?」
「そんなことしているから、あなたの成績はいっつも底辺なんでしょうが」
「だって机の上で勉強したことなんか、戦闘じゃなーんにも役に立たないでしょ」
銀髪の少女は屋上の錆びた柵から軽く身を乗り出して、周りを見渡す。士官学校の周りには、建物が軍関連のものしかない。街は基本的に地下、もしくはもう少し東寄りにある。ここは戦闘部隊が集まる国境近くの最前線だ。
「あまり身を乗り出すと危ないでしょ」
溜め息をつきながら、女性が軍服の襟元を緩める。
「大丈夫。このくらいなら落ちても死なないから」
無感情に少女は下を覗く。
「いいから戻りなさい」
「はーい」
ぴょんっと後ろに下がると、また小さな金属音が響いた。
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