流れ、流るる。

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 そのフェンスは、世界をへだてる壁だった。  などと言えば大げさだけど、17から18になるという年齢で学生ではない僕にとっては、高校をぐるりと囲むフェンスは越えがたい壁だ。  制服姿の少年少女が、フェンスの向こうで青春を謳歌する。  その様子を遠目に見るだけで、ちょっと猫背になってしまう。居たたまれない。  緑の金網は、僕にとっては鉄壁だった。  けれどそれを軽々と越えてくるものがある。  ひとつは、校舎の裏にぽつんとたたずむ桜の木。青空をつかむように育った枝は、フェンスを越えてこちら側の土手まで伸びている。  この枝は、内側と外側をつなぐ架け橋のようだった。  三月の末。  三寒四温にさそわれて、はやくも枝先の蕾がやわらかくほころんでいる。  この桜の木の下で昼食をとる。  それが僕のささやかな楽しみだった。  そして、もうひとつ。 「三月十八日。今日のお昼の放送をはじめます」  涼しげな声が、校内のスピーカーからフェンスを越えて流れてくる。  花冷えの昼下がり。  彼女の声にのって、花びらがひらひら、僕の手の中に舞い降りた。
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