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職業柄、観察眼には自信がある朝日向だが、深影と同居生活を始めてからこれまでに気が付いたことがある。
仕事上では、深影と朝日向は敵対関係にあたる。
嫌なら追い出せばいいのに、彼はそうしない。
同居を許しているばかりか、世話を焼くしまつだ。
いくらなんでもお人好しがすぎる、と当初は思っていたが、彼の場合は寂しがり、が当てはまると今の朝日向は考えている。
彼の両親は基本的に世界を飛び回っているらしく、めったに家に帰ってくることはないという。
彼が無意識に求めていたものに、朝日向は帰宅した彼に声をかけた時、気が付いた。
朝日向としては「お帰り」という当たり前の言葉をかけただけなのだが、深影はひどく驚いた顔をしていた。
それから、彼はほんのわずかに表情をほころばせて「ただいま」と答えたのだ。
些細なことだが、朝日向が観察している限り、深影はそういう普通の家庭における当たり前のやりとりを無意識のうちに求めているのだ。
そう気が付いてから、朝日向はできる限り、彼が出かける前に起きて声をかけるし、寝ないで彼の帰りを待つようにしている。
何故かと問われれば具体的な理由はないが、なんとなくそうしたいと、自分が思っているからだ。
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