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夜の闇を月の光が照らす中、深影朔夜は静かに帰宅する。
「……ただいま」
「お帰りなさい」
自分の小さな呟きに、まさか返事がくるとは思っていなかった深影は、思わず目を瞠る。
時刻は深夜を回っているにも関わらず、眠らずに共有スペースに居座っていた同居人の名は、朝日向光輝。
「……夜更かしは健康に悪いぞ」
「深夜帰りしている人に言われても説得力ありませんよ」
自分でもそう思うので、深影は口をつぐんだ。
どれだけ深影が夜遅くに帰宅したとしても、不思議なことに、朝日向はいつも起きている。
まさか自分が帰ってくるまで待ってくれている、なんてことはないだろう。
朝日向が、朝に弱い夜型人間なだけだ。
「猫にでも引っかかれましたか」
「は?」
意味が分からず問い返した深影に、引っかき傷、と呟いた朝日向が頬のあたりを指さした。
思い当たる出来事があった深影は、あぁ、とわずかに表情を歪めてごまかした。
そんな深影を、じっと朝日向が見据えてきた。
観察されているような視線に、深影が居心地の悪さを感じて後ずさると、朝日向の視線がスッと細められる。
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