永井ネルの場合

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あれから半年。 私はまた一人、空を見上げている。 コートに赤チェックのマフラーをぐるぐる巻きにした歩く足を止めれば、 春を目前に暖かな日差しの今日、薄い青色をした空が澄み切ってどこまでも高く広がっている。 雲はただの水蒸気の塊だってこと 水蒸気にの上には何にもないんだってこと そんな事、大人になった私たちは誰だって知っている。 彼の、本当の体だった何かしらは今も冷たい石の中にあって 空の上になど居なんだってこと そんなこと は、 とっくの昔に知っている。 だけど・・・ 青い空を見上げていると、 その雲の上に亡くした人が居る気がしてくるから不思議だ。 亡くした人の笑顔に会える気がして、涙が溢れてくるから不思議だ。 どこかに隠れていた涙は 半年以上たってようやく私の目から、 あふれ出したみたいで ここにきて私は 初めて泣いた。 彼を亡くしてから初めて、 初めて涙を流して泣いた。
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