0人が本棚に入れています
本棚に追加
俺との遭遇
ここはいい部屋だ。
俺はベッドで手足を伸ばした。
築年数34年、木造アパート、2DKで風呂トイレは別々、日当たり良好、4.5畳の和室と6畳の洋室。給湯設備はリフォーム済み。駅まで5分もかからない立地の良さに加えて、家賃は月々たったの5万円。これ以上の物件はそうそう見つからないだろう。
なんでも、この部屋にいると不気味な気配を感じるとかいって、これまでの住人は次々に引っ越しているらしい。それで家賃が安いのだ。しかし俺はそんなものは気にしない。
洋室に置いた真新しいベッドはふかふかで、引っ越しの疲れを癒やしてくれそうだ。そう。今日から新しいアパートで新しい生活が始まるのだ。
社会人になって、初めての一人暮らしだ。明日からの仕事に備えて、寝ようかな。
……とここまで考えて、ベッドから飛び起きた。戸締まりの確認がまだだった。
独り暮らしを始めるからには、自分で自分を守らなくちゃ。
まずは和室だ。今は引っ越しに使ったダンボールが山積みされているだけで何もない部屋だが、窓は2つあった。
そのドアを開けた瞬間、俺はその光景に目を疑った。
「誰だお前?」
「お前こそ誰だよ?」
そこに男がいた。
そいつはベッドから半身を起こして俺を凝視していた。俺と同じくらいの年齢、同じくらいの身長、違う点といったら着ている部屋着くらい。
俺の脳裏に、恐ろしい想像が浮かんだ。
ひょっとして不動産屋が何か間違いをして、俺と同じような男を同じ部屋に賃貸契約しちゃったのでは? 泥棒がわざわざベッドを部屋に持ち込んでくつろぐってことはないだろう。男のベッドの向こうでは、テレビがバカバカしくてまさしく俺好みのバラエティー番組を垂れ流している。
テレビの観客がわざとらしい笑い声を上げて、俺は推理から現実に引き戻された。
「えっと、その。お前ってひょっとして……」
男が薄気味悪いものを見る目でこっちを見ている。その顔を見て、俺もまた同じ目線を男に返した。
「あれ? お前はひょっとして……」
と、男と同じ質問を口にする。
『ひょっとして、俺?』
目つき顔立ち身長といい、どこからどこまでも同じ外見。目の前にいる男はまさしく俺だった。
最初のコメントを投稿しよう!