「Nostalgic」

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「Nostalgic」

 さくらんぼの時季が終わる頃、紅花摘みの季節が訪れる。 岩根貴俊(いわねたかとし)は目前のテレビを見て、そんな歳時記的な出来事を不意に思い出した。  仕事帰り、岩根は両親が住む実家から電車で三十分も離れていない距離の一人暮らしの都心のアパートにたどり着くと、ネクタイを緩めながらいつも通りテレビを付けた。すると地元は山形の尾花沢市のさくらんぼ狩りの特集がたまたま放送していたので、しばらく目を向けた。  今はスローライフとやらが流行っているから、ローカルな特集も珍しくないか。  郷里のトピックとはいえ、さほど感慨にふける事もなく、他人事のようにその番組を着替えしながら見ていると、岩根の頭の中で今日が自分の二十九歳の誕生日だという事が出し抜けに浮かんだ。 仕事中は一度も覚えていなかったのに、郷土の映像を見て想い起こすとは、ある意味皮肉な感じだな。 岩根は自嘲気味になりながら足をルームウェアのパンツに通すと、夕飯の外食後、帰宅時のビール一杯のルーティンをこなそうと冷蔵庫から缶ビール、厳密に言うと発泡酒を取り出し、座椅子に深く腰掛けた。     
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