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ゴトゴトン…ゴトゴトン…
下り線快速列車に乗り換え、バッグを網棚の上に乗せた。正確には宮地に乗せてもらったんだけど、その辺りはどうでも。
休日の登山だろう、車両の中は中高年のそれらしき人が目につく。
県境を超えたあたりで4人掛けシートが空いたので一緒に腰を下ろしてひと息ついた途端、向かい合った宮地良介は呟いた。
「その髪、寝ぐせ?」
「失礼ね、寝ぐせみたいなパーマでクシュッと」
「寝ぐせか」
この男、ぱっと見は悪くないけど空気読まない。まあ読めないのだ、仕方がない。
「宮地くんこそ寝ぐせ。相当はねてるわ。鏡見て直すといいわよ」
フン、慌てて窓ガラスを見たってそこに映るのはビルのジオラマ。
私だってムキになる必要もないのに、宮地にはいつも余計な一言を言ってしまう。
耳が悪いらしく、人の声の違いがわからないのだそうだ。
気の毒ではあるけれど、想像つかないし、嫌味もいつのまにかポジティブに解釈する宮地に甘えて、こうしてあちこち連れ回している。
甘えて?
違う。私たちは決して甘い関係ではない。
私も宮地の人の良さを利用する一人だ。
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