〈Kurofune arrival〉

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〈Kurofune arrival〉

 一事を必ず成さむと思わば、他の事破るもいたむべからず。人の嘲けりをも恥ずべからず。万事に変えずしては、一つの大事成るべからず。                                                            吉田兼好                  *         * 伊豆半島の最南端、石廊崎(いろうざき)より四十海里離れた大海原。日没の中、深い靄がかかるその海を、巨大な四隻の黒い船が、波を打ち壊しながら突き進んでいた。四隻の船のうち二艦が蒸気艦、残りの二艦は帆走スループ(小型帆船)。各々の蒸気艦がそれぞれの帆船を曳航している。また、四隻の船には八インチ砲や十インチ砲、三十二ポンド砲などを複数装備しており、それはまさしく軍艦の様相を呈していた。片方の蒸気艦の全長は二百尺(約六十メートル)以上、もう片方は二百五十尺(約七十五メートル)以上を有し、幅も三十尺(約九メートル)以上の余裕はあり、それぞれ二千屯、千五百屯は超えると見られる二隻の蒸気艦が、静寂漂う海を航行するその光景は、勇壮かつ独特の物々しさを映し出していた。               *     
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