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 眠らない化け物が死んだ。  午前三時の感傷に包まれて、私は煙を吐いた。周りはだだっぴろく何もない。バケモノを弔う星の葬列もないらしい。線香を備えるような人もいない。深淵の夜の底、夜風だけが冷たく頬を行き過ぎる。  ヤツがこの村にやってきた時、私たちは平静を装いながらも、底知れない恐怖を拭い去ることが出来なかった。だがしかし、捉え所のないその恐怖を言語化出来る人間はいなかった。それくらい得体の知れない不気味な存在であったのだ。  しかしただ一人だけこう呟いた老人がいた。訳のわならないことばかり言うものだから、村人から爪弾きにされて日がな家に閉じ籠っているようなつまらない男だ。そんな老人が珍しく外を歩いていると思うと、バケモノを遠巻きに眺めている人だかりに近づいて「夜が食べられてしまう」と一言だけ呟いて、またどこかへ行ってしまった。お得意の妄言だ、だのなんだの。私たちは自らの不安を払拭するために彼を悪し様に罵った。  ......だが今になって思う。本当に彼がそういった通りになってしまった。  私たちは夜を失った。大きな区切りをなくしてしまったのだ。バケモノは意地汚く夜を咀嚼して、見返りに温かい光をこの村に灯した。私たちはその光を享受し、頭を垂れ、自ら尊い夜を捧げた。それが私たちの罪業。私たちはもう、眠らない世界で歪に動き続ける人形になってしまった。親はもう子供を叱ることは出来ない。 「ほらもう夜だよ。早く帰ろう」 「そんなものはもうないよ?バケモノがみんな食べちゃったから」  親が眠らないから子供も眠らない。夜は権威を失った。  バケモノの死骸からは煌々とした輝きは失われ、私たちは夜を取り戻した。しかしもう私たちは変わってしまったのだ。またいつか、近いうちに違うバケモノがこの村にやって来るだろう。  おやすみ眠らないバケモノ。私は新しく火を着けたタバコを、ヤツの亡骸に手向けた。
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