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少女は鉄格子の窓からいつも外を眺めていた。誰が閉じ込めたものか、入り口のドアには常に鍵がかかっている。
ドアの下の小さな隙間から日に二度、食事の乗ったお盆が差し込まれるだけで、誰との交流もなかった。
晴れの日の雲のような白い肌、窓から差し込む光に輝く空色の髪、それらを眺めて褒めたたえる者もいない。
彼女に与えられた自由は、自身と似通う空を眺めることだけ。
どこまでも続く青い空。下界はぼんやりとして見えない。
少女は一つため息。
そこに黒い点が刺した。最初は夜空の星くらいのかすかな点だったものが段々と近づいてきて、形を成す。
一羽の黒いカラスだ。カラスが鉄格子の隙間からスゥッと室内に入って来た。
久しぶりの生き物との邂逅に、少女は喜んだ。
おいで、と言うように手を伸ばす。
カラスは動かなかった。
じっと黒い目で色素の薄い少女を見ている。
少女も歩み寄ろうとはしなかった。ただカラスを青い目でじいっと見ている。
少女は久しぶりに自分以外の動く生き物を見た。
だから下手な事をしてカラスが去ってしまったらと思ったら、下手に動けなかったのだ。
手を引っ込めて、カラスが驚いて逃げないように、目を離した隙にいなくならないように、少女はそうっと後ずさりをした。
後ずさりしすぎて頭をぶつけた。頭をさすり、壁伝いに歩き、入り口にいつも置いてあるお盆から一切れのパンを手に取った。
小さくちぎっては手のひらに乗せる。カラスはそれを興味深そうに見ている。
小さな両手いっぱいにパンくずが出来た。
それをこぼさないよう、また抜き足差し足忍び足で歩く。
両手をカラスに差し出すと、カラスは大きな翼をぶわっと広げて飛びついた。
バサバサと騒がしく食べるものだから、ポロポロとパンが零れる。ついでに手もつつかれて痛い。
けれども印象の薄い少女の口元には久方ぶりの笑顔が浮かんでいた。
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