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 それから、カラスはよく少女の部屋にやって来るようになった。  カラスはいつも少女の元にいるわけではなく、昼間出かけては夕暮れに帰って来て、少女の差しだすパンくずを食べる。  少女は必ず両手を受け皿にして、パンを全部カラスにやってしまう。  代わりにカラスはどこからか取って来た木の実をくわえて戻って来て、少女に全部やってしまう。  それは狩りから成果を手に戻って来た夫を迎える妻のようである。  そんな行為を繰り返すうち、カラスのパンのつつき方も様になって、少女の手をつっつくこともなく、器用にパンを食うようになった。  ささやかな触れ合いと互いへの気遣いは信頼の種を呼び、少女の重い口を軽くする。  少女は昔からこんな風に、鳥と仲睦まじくするのが得意だった。  しかるべき段階を踏めば鳥はよく少女に懐き、少女もまた鳥を妻のように、あるいは母のように可愛がった。  けれどこの部屋は高い高い塔の上にあるものだから、久しぶりの友達なのだと少女は微笑む。  森の小屋で母と暮らしていた時は良かった。  母は少女の特性をよく理解し、姿形の違うものと心を交わすさまを笑みで見届けてくれた。  そんな母ももういない。ある日パタリと病に倒れ、助からなかったのだ。  森でひっそりと暮らす、鳥と心を通わせる少女を、村の人間は母のようには受け入れない。  受け入れられないとわかっていたから、母は少女と離れた森で暮らしていたのだろう。  少女の村の人間は、異端のものをそっとしておくという事を知らず、勝手に忌み嫌ってこの場所に閉じ込めた。  今のところは生かされているが、近い将来どうなるかはわからない。  何か口にしたくもない用途に少女を使うのかもしれないし、三食届く食事の供給も突然切れるかもしれない。  ──笑っちゃうよね、勝手に怖がって、勝手に閉じ込めて。
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