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男は彼女のことを、色々と質問してきた。
──どんな子? どこで知り合ったの? どうして付き合い始めたの? キスくらいした?
──どうして別れたの?
彼女の理想と一致する、「完璧」な恋人じゃなかったから。
思い出した。その答えから始まったのだ、この「完璧」の話は。
完璧なんてものは、存在しない──三度繰り返した男の真意は、ここにあったのだろうか。
「口説いてんのか?」
「直球だね」
男は笑う。長い指で髪を弄りながら、否定しない。
「お前は、遠まわし過ぎる」
「俺だって『完璧』じゃないんだ。本気の恋には、臆病なんだよ」
自分が整えた短い髪に、男は再び唇を触れさせた。
「なあ。俺のこと、嫌い?」
柔らかく響く低い声。薄く笑みを刷いた、いつもの顔。ただ、僅かに語尾が震えていた。
緊張、あるいは怯え。
どちらも、男には似合わないように思える。
冗談めかした本気。
「回りくどいのは、性に合わない」
「お前は直球な上に、残酷だね」
いや、潔いと言うべきか。呟いた男は目を眇める。
不意に座っていた椅子が回され、目の前には男がいた。
薄い笑みを消したその顔は、整っている分、冷たくも見える。だが、その虹彩は──熱を孕んだ飴色で。
ゆっくりと跪き、見上げてくる顔は、とても真摯だ。
「お前が、好きだよ」
微量の硬度を持った声は、震えてはいなかった。
ゆっくりと、息を吐き出す。
答えは、決まっている。
「お前、俺の髪を2センチ以上、切ったことがあるか?」
「ないね」
男の口元に、柔らかな笑みが戻ってくる。
「自惚れていいのかな? お前がそれだけ、俺に会いたがってくれていると」
「ああ」
長い指が、こめかみに触れる。
何かを確かめるように頬のラインを撫で、顎先を捕まえる。
近付いてきた顔が、何を求めているのかは明らかだ。
逃げようなどとは、毛頭思わない。
欲しいならば、くれてやる。
「好きだ」
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