8人が本棚に入れています
本棚に追加
【Hard edge blues】
「断鉄の総助?」
堀田甚蔵(ほったじんぞう)は眉間に皺を寄せて厳しく声を発すると、側に置いてあった刀をやにわに手繰り寄せた。
「うむ。三条大橋で斬られた坂上(さかがみ)は、恐らく奴に……そう、断鉄の総助に斬られた、と」
米沢藩の脱藩浪士、篠崎悠九郎(しのざきゆうくろう)は目前で頼りなく輝く行灯(あんどん)を見つめると、言葉を慎重に選んで語る。
「断鉄の総助。一体、何者なのだ、奴は。新撰組や見廻り組に与(くみ)しているという話は聞かないがな」
長州藩の藩士、倉沢拓馬(くらさわたくま)は畳を爪でむしり苛立ちを隠さず昂って言った。
「確かに。だが、奴の凶刃(きょうじん)の犠牲になっているのは、薩摩や長州の人間ばかり。佐幕派の人間である事は間違いないと思うが」
篠崎は顎を擦りつつ答える。
「坂上もそうだが、富小路通で斬られた同志の高柳(たかやなぎ)も腰まで真っ二つにされていたな。やはり示現流の使い手だろうか」
「うーむ、薩摩の剣術が我々に仇をなしているとすれば皮肉ではある。それにしても鉄をも一刀する撃剣にして断鉄とは、驕った異名だな」
「新撰組連中だけでも厄介だというのに、よくもまあ面倒な輩が現れる」
最初のコメントを投稿しよう!