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言葉に詰まって口が動かない間も、作業の手は進めた。脱脂綿に含ませた消毒で、傷口を順に消毒していく。
「別にお前を責めてる訳じゃねえよ。要するに秀人はお前を助けたかった。一人で背負い込んで勝手に動くなって事だよ」
大樹は厳しさの中に優しさを含ませたような物言いをした。
「秀人、お前……。私にそれを分からせる為だけに、こんなボロボロんなるまでやられたのか?」
私は一旦手を止めて秀人の顔を覗き込む。
「こうでもしなきゃ、お前を止めらんねえだろ。無駄にしねえでくれよな」
腫れ上がった顔で無理に笑顔を作る秀人。
今、大樹から聞かされて分かっていた事でも、実際に秀人の口から聞いた事により、その事実が心に重くのしかかってきた。
「秀人、ごめん」
私はやり切れない気持ちで謝罪の言葉を口にする。全て私の甘い考えのせい。悔やんでも悔やみきれない。
「謝んなよ。別に美咲が悪い訳じゃねえだろ。もう一人で無茶しねえって約束してくれんなら、そんで良いよ。だいたい美咲はいつも一人で背負いすぎなんだよ。もっと俺らの事、頼れよな」
秀人は私の頭を優しく撫でてくれる。
「約束する。絶対に一人で無茶しねえよ」
秀人の気持ちや行為を無駄にしない為にも、絶対に無茶しない。私は心に固く誓った。
その時、秀人と大樹が顔を見合わせて笑顔で頷きあっていた。
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