『Order of killing』

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 元より口数の少ない父が、しかも夕飯の最中に話している事に、御薬袋は違和感を覚えたが、普段通り、たった三人家族の間の会話にも加わらず、自身は父親の出世話に興味を持たないまま、黙々と切干大根を口に運んでいた。 「兎に角、おめでとうございます、あなた。やっぱり人間、T大学卒業とかの肩書きだけじゃ駄目なんですねえ。そう言えば雅人は最近どうなの、予備校の方は?」  御薬袋は内心、まただ、と毒づく。どこか学歴、学業的な話のキッカケがあると、少ない機会とばかりに、御薬袋自身の偏差値状況を窺ってくる。干渉している事が少ない母とはいえ、時折、ハッパをかけるというより嫌味的な意味で自分の成績について尋ねられる事に、御薬袋は不快な感情を抱いていた。 一方で父親とは完全に御薬袋について関心を持たず、一週間は一言も話をしていないという状況もしばしばあった。 「そこそこ順調だよ」  無味乾燥に御薬袋は答える。しかし、そんな無気力な息子の態度も推し量らずに母は質問を続ける。 「そう。今年から文系志望に変えたから、逆に分からない事だらけじゃないかって心配していたけど、その辺は大丈夫?」 「大丈夫だよ」 「ちゃんと理解している?」 「文系の方が記憶モノばかりだから、執拗に反復して暗記すればイイだけだから心配ないよ」  御薬袋はやや語気を強めて答えた。すると母も空気を察してか、 「そう、なら良いけど」     
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