『Order of killing』

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勉学意欲のなかった御薬袋も、さすがに受験の時期が近づくにつれ、成績の向上やこれ以上浪人はしたくない、という強迫観念も相まって受験生としての自覚が出てきた。 「ん?」  空席が目立つ車内の中、ウォークマンを音漏れさせて聞きながら、肩を小刻みに揺らして座っている男の顔が、御薬袋の目に入った。  茂田じゃないか。  御薬袋がそこから見える茂田準の姿は、目を瞑って頭をフリフリ。隣りに乗客が座っていれば迷惑千万だが、茂田の周りには誰も座っていなかったので、特に問題となる動きではなかった。 茂田は実家住まいで、家は御薬袋と同じI区なので、同じ電車で鉢合わせになるのもしばしば。御薬袋は話しかけようと思ったが、どうせウォークマンで聴いている音楽は茂田好みのソウル・ミュージック。このタイミングで話しかけたら、これイイっすよ、と言いながらソウルなどに興味のない御薬袋に、茂田が強引にソウル音楽を推し進めてきて、ウザったくなるのは自明の理。御薬袋は予備校のある駅に到着するまでは、茂田に話しかけない事にした。だが、いざ駅に到着しても、御薬袋は茂田に声をかけようとしなかった。まだウォークマンを聴いているようだし、何だがお喋りしながら予備校に行くのも煩わしい……という御薬袋の思いもあったが、それよりも一つ頭に引っかかる事があった。     
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