『Order of killing』

17/60
前へ
/60ページ
次へ
 御薬袋自身、さり気ない話のフリから、茂田に自分が持つ白い手帖に書いてあった、「牟田口洋子」と同名の名前を持つ犠牲者の殺人事件の云々を聞いてやったぞ、と我ながらの話術に一人悦に浸って、茂田に尋ねたつもりだった。一方の茂田はそんな御薬袋の自我称賛の念とは別に、ただただノートに書き込みをしながら、御薬袋とは視線も合わさず、また、さほどその質問に興味を示す様子もなく、 「殺人事件? そんなのあったかなあ」  と取り付く態度は見せず、素っ気なく答えた。御薬袋はその反応を見て若干肩を落とし、 「そうか」 「でも何で突然殺人事件の話になるんすか?」 「いや、深い意味はないよ。ただお前ん家の方で、そんな事件があったっていうニュースを、昨日たまたま聞いたからさ。だって人殺しだぜ。そんなのが近所で起こったら話題になるだろ。じゃあ、それほどお前ん家の近くで起こった事件でもなかったのかなあ」 「そうじゃないんすか。俺はてっきり先輩の知り合いが殺されたのかと思いましたよ」 「え?」  意表を突かれた表情になった御薬袋。ここで会話は途切れ、茂田はさらに黙々と自習に熱を入れ直していた。片や御薬袋はゆっくりとバッグから勉強道具を取り出し、釈然としない様子で自習を始めようとした。その時、机に出したテキストと一緒に例の白革の手帖が混ざっていた。     
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加