『Order of killing』

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 御薬袋はコーヒーを一気飲みすると、茂田準の兄であり、同級生だった茂田の兄の下の名前をいまだに覚えている事に、自嘲気味かつ妙な苛立ちを感じた。                    * 「ようやく部長の内定をもらったよ」  夕飯の時間、御薬袋の父親が珍しく食事中に口を開いた。 「え? 本当ですか」  御薬袋の母親は一瞬、お新香にいっていた箸を止め、隣りに座るセルロイド素材のウェリントン型の黒縁眼鏡を、風呂場以外では常にかけ続ける父の顔を見た。片や、四角いテーブル、対面に席をとる御薬袋雅人は特に気にする事なく食事を進めていた。  母親はやや上気しながら口角を緩めて、 「てっきり年功序列的とかは関係ないと私は思っていたから、同期とはいえ年下の佐藤さんが昇進すると思っていたんですけどね。だって佐藤さんはT大学出身で中小企業診断士の資格も持っていて、順調に出世コースに乗っているとか、お父さん、言っていたじゃありませんか」 「私も佐藤君が部長の椅子に選ばれると思っていたよ。だけど、実際の人事ではやはり会社の貢献度というか、一応は今までの具体性のある論功行賞的なものを残してきた方に、会社は重きをおいたのかな。まあ、積み重ねた実績の結果が評価されたのだろう」     
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