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──人間は今、桜という存在を忘れつつある。君は人間のことを薄情だと言ったが、まったくもってその通りかもしれない。
「桜が咲くと、皆盛大に騒ぐわ。でも花が散ってしまうと、そこに桜の木があったことすら忘れてしまう。咲いて初めて、そこに桜の木があったことを知ったり思い出したりする。花見と称して浮かれ騒ぐけれど、実際のところは桜でも他の花でもどうでもいいの」
郊外に新設された大規模なバラ園の色とりどりのバラに群がる人々の姿をテレビ中継で眺めながら、桜の木の無念の思いを少しずつ理解するようになっていた陽一の耳元で、かつての少女の言葉が再生された。
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