unknown suicide

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 ──それにしても、なんて陰気で沈鬱な天気だろう。桜の白い花びらも濁ったグレーの空のように澱んで見えてしまう。  卒業式の時分にはまだ五分咲きだった桜が満開となった3月下旬、陽一がもう当分足を踏み入れることはないであろう中学校をひとり訪れたのは、数々の儚くてやるせない思い出たちと向き合い、そして決別するためだった。  無人の校庭には、外周に沿ってぐるりと桜の木が立ち並んでいる。無数の白い花弁をこんもりと纏った桜の木は1本でも強烈な存在感を放っており、それが何十本も列を成して生えているさまは、圧迫感にも似た畏怖の念を陽一に抱かせた。  非行に走っていたころは、桜どころか景色の美しさすら目に入っていなかったことに、陽一は改めて気付かされた。  ──この支配からの、卒業。俺たちを支配していたものとは、一体何だったんだろうか。支配から逃れた先にあるものは、あてどもない、不確かな未来かもしれないけど。……俺は変わってみせるんだ。もうこんな虚しい思いはたくさんだ。これから先の未来が、どんなに生きにくくても──  満開の桜の木の下に佇み、決意にも似たとりとめのない思いで胸を満たしていた陽一は、ふと傍らに1人の少女が立っていることに気付いた。
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