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いつからそこにいたのか──陽一は記憶を遡ってみたが、少女がどこから現れたのかもまるで思い出せなかった。
陽一と同じくらいの背格好の少女は暗褐色の長い髪と微かにピンクがかった白いワンピースのすそを静かに揺らしながら、髪と同じ色の大きな瞳で感情無く陽一を見据えて佇んでいる。
まるで幽霊か、桜の精じゃないか──血色が感じられない真っ白な肌と裸足の足元を見て、普段オカルトや心霊現象といった類を信じない陽一は背筋を冷たい汗が一筋流れるのを感じた。
「おめでとう」
「え?」
「卒業」
「……」
少女の血の気の無い唇が小さく動き、か細くも芯のある言葉が発せられた。
陽一がぽかんとしていると、少女は可笑しそうに小さく笑った。その生気のない笑顔にも、少女の容姿にも、陽一は全く見覚えが無かった。知人や在校生の誰とも存在の記憶が一致しない少女に対し、陽一はひとまず「ど、どうも」と頭を下げた。
動揺する陽一を尻目に、少女は自嘲気味ともとれる投げやりな笑顔を浮かべた。
「私もまもなく、この世界を去るんだけどね」
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