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「もうこれまでだわ。長い間、ずっとうんざりさせられてきたけれど。移り気で、薄情で、都合よく私たちを扱ってばかりの人間たちの支配する、この世界に……」
その言葉に、いよいよこの少女は本当に桜の化身なのかもしれないという確信に満ち、陽一は背筋が凍り付くのを感じた。
「いなくなる、って……どうする気だ。まさか、死ぬ……ってことか?」
具体的な単語にすることがこの状況において正しいことなのかわかりあぐねながら、陽一は問いかけた。
「そうよ。貴方の考えているものとはちょっと違うかもしれないけど。まさか、引き止めてくれるの?」
少女はけろりと答えた。その瞳には冗談のかけらも漂っていない代わりに、悲壮感もない。達観しているような、諦めの境地のような態度に、陽一は雲を掴もうとしているようなもどかしさを覚え始めた。
「そんなこといきなり言われて、ほっとけるかよ」
「大丈夫よ、私の仲間は世界中にいるもの。私一人がいなくなっても、誰も困らない」
「そういうことじゃなくて……」
「……貴方、やっぱり優しいのね」
少女は懐かし気に陽一を見つめた。
そのまなざしに、思いがけず陽一は少女のことをずっと前から知っているような気持ちに見舞われた。
──どこかで会ったことがある。いや、ずっと前から見守られていたような気がする。やっぱりこの子は……
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