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「自惚れ屋のスイセンには、いつも笑われたわ。人間からの評価なんて気にしなくていい、ただ自分の美しさにだけ目を向けていればいい、って。……私も、スイセンみたいに自分を愛することが出来たらよかったのかもしれないけど」
少女は苦笑まじりの笑みをこぼした。桜の木の下には水仙もちょうど見ごろを迎えて咲いているが、曇天のもとでは副花冠の黄色も葉身の緑色も本来の鮮やかさを充分発揮出来ておらず、桜の存在感を前にするとごく地味な印象に留まっていた。
「本来はどんな花だって美しくてかけがえのないものだっていうこと、知っているはずなのに。人間は特定の品種だけ異様にほめそやして、地味で目立たない花には見向きもしない。都合のいいように改良して、間引いて、加工する。人間にとって都合の悪い品種は根絶やしにされる。そしてどんな花も、枯れてしまえばそれまで。……植物の世界も人間の世界も、案外似たようなものなのかもしれないわね」
かすかに険のある口調の少女の物言いに陽一が思わず身じろぎすると、少女ははっとしたように口元を手で押さえ、ばつが悪そうに苦笑した。
「私、次に生まれ変わるならもっと控えめな存在になれたら、って思うの。他の花たちに混じってひっそりと息づいて、人間からの注目を集めないような……。それでも、私を見つけてくれた人の目を喜ばすことが出来るような、そんな花に……」
独り言のように呟くと少女はどこか満足そうに息を深くつき、陽一に微笑みかけた。
「最期に貴方に会えてよかった。私、貴方のことが心配だったの」
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