真冬

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「駄目ッ!」    能力が弱くなった私に、あの生物を止められる力はない。真琴は悲鳴をあげてパニックをおこしている。  食われる!? あの生物は私の前にいて、今にも飛びかかろうとしている。    こわいっ!  助けて!  助けて!  どうしよう!  真琴!  私が真琴を見ると彼女は背を向けて駆け出していた。 真琴は私を置いて、逃げたのだ。    恐怖を凌駕する絶望。 「ぅうああああああああああ!」  私は絶叫した。  悲しみと。  絶望と。  呪いを込めて。  すると、あの生物はビクビクッとしてひっくり返った。 「ジュンキチ」の声がした。 (ヒドイヤ、ヨバレタカラキタノニ? ナゼ? ボクヲイタメツケル?) (ココニキタノハマチガイダッタ) (キミダケガ、ボクノクルシミヲワカッテクレタト、シンジタノニ) (ヒドイヤ) 「ジュンキチ」は山の中の湖に帰るために去ってしまった。 (待って……違う) (置いていかないで……) (もう1人きりはイヤ!)  私は「ジュンキチ」を追って、湖に身を投げると、すでに「ジュンキチ」で無くなっていた「ソレ」に肉体を呑まれた。  結局、私を必要としてくれたのは、飢えた「ソレ」だけだった。
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