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前を横切っていく彼を、ホッとした気持ちで見つつ、そろそろ行こうと一歩踏み込む。すると、猫は私の動きを見てか、一目散に暗がりの方へと走っていった。
冷蔵庫から一欠片の氷を手に取り、口に放り込んだ。
「はー、冷たい」
上顎と舌がひんやりとする。歯を少し開き氷を転がして、左右の頬裏を冷やしていく。じんわりと解けたものが喉を通り、火照った体に沁み渡っていった。口の中で氷を弄びつつテーブルへ向かう。間接照明のほの明るい中に、携帯が光っているのが見えた。画面に顔を近づけると、自分と同じ顔が笑っていた。
家に戻った私は、買ったビールには手をつけず、携帯のアルバムを見ながら過去に耽っていた。歳を遡っていくほど、なんか羨ましく映ってみえる。というか、「誰、こいつ?」ってなる。
付き合っていた恋人、遠くに行った友達、一枚の写真を目にする度に様々な思い出が浮かんでくる。
中学時代の写真を見ていると、実家の近くにある公園で撮ったものがあった。そこで、ふと、私は猫の死骸のことを思い出した。
何時だったか、たぶん隠れんぼをしている最中だったような。公園の草むらに入って隠れていた時に見つけたのだ。
ぽっかりと開いた口に小さな八重歯が覗き、黒い虫が猫の顔や体を這っていた。白猫だった気もするし、ミケだった気もする。
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