Please notice me.

　雄二は叫ぶ。
　頭を抱え、
　髪を掻き毟り、
　血を吐く様な絶叫を上げ、
　握り締めた拳からは血が溢れ出す。
「神様ッ！神様ッ！」
　泣き叫ぶ。
「どうして貴方は杏子を奪ったのですかッ！？」
　訴える。
「返してッ！返して下さいッ！」
　希う。
「杏子を貴方から返して下さいッ！神様ァッ！」
　…私を、神様から返して欲しいと。
　…………駄目なんだよ。雄二。
　神様に奪われた命は、もう帰って来ないんだ。
　帰って来ないんだよ。雄二。
　リビングの隅を見る。
　そこにあったのは、仏壇と、位牌と、火が付いたばかりの線香と、遺影。
　…私の写真が入った、遺影。
　事故だった。
　完璧に相手の悪い事故。
　…でも、雄二は。
　雄二は自分がずっと私を殺したと、自分を責め続けている。
　あの時、もっと早くハンドルを切っていたら。
　あの時、あの道を選ばなかったら。
　あの時、車を使って外出なんてしなかったら。
　あの時、あの時、あの時。
　無数の可能性。
　彼は、それをずっと悔いている。
　嗚呼。嗚呼。
　少しだけ。
　少しだけでも、彼と話す事が出来たなら。
　そうすれば、雄二に罪は無いよって。
　たったその一言だけでも、伝えられるのに。
　肩を震わせる彼に触れようと手を伸ばす。
　伸ばした手は、彼をすり抜けた。
　…仕方…無い、よね。
　私は、幽霊。
　幽霊が何かに触れる訳が無いもの。
　…それでも私は、彼に手を伸ばす。
　手を伸ばして、ぎゅっと、
　ぎゅーっと強く、抱き締める振りをする。
　触れられない。
　雄二に、触れる事は出来ない。
　…それでも私は、雄二を抱き締める振りを続ける。
　ほんの少しで良い。
　ほんの少し。ほんの少しで良いんだ。
　こうして抱き締める事で、ほんの少しの、私の温もりが。
「…雄二、もう良いんだよ。
　もう、自分を責めなくて良いんだよ…っ！」
　こうして語り掛ける事で、ほんの少しの、私の言葉が。
　雄二に届くと、信じて。