隣の同居人

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「稲生さん、一人暮らしを始めるにあたって何かアドバイスとかありますか? あ、大学生活のことでもいいんですけど?」 「そうですね……」  稲生は少し考えるふりをした。考えるまでもなく新島にすべきアドバイスは決まっていたのだが、なるべく違和感なく普通に聞こえるようにしたかったのだ。 「新しい環境は何かと疲れるし、生活も乱れやすいですから……。体調を崩さないためにも早く寝て、睡眠時間を確保することが大切ですかね」 「なるほど。ありがとうございます!」 「いえいえ。それじゃあこれで」  稲生が軽く手を挙げると、新島はぺこりと頭を下げて、もう一度「ありがとうございます!」と言った。  自室に入って、稲生はふっと一息ついた。  新島は見るからにスポーツマン、好青年といった感じだった。これから始まる大学生活への期待感もあるのだろう、きらきらと目が輝いているようにさえ見えた。  そんな夢と希望にあふれた新入生が、どうしてあの部屋を選んでしまったのだろう。普通ならまともな隣人を喜ぶべきところなのだが、今回ばかりは喜べない。  なにしろ新島の二〇八号室では、夜な夜な霊の同居生活が繰り広げられているのである。     
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