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幸運だったのが、じいちゃんがあたしになんでもやらせたことだ。小学校に上がった頃から、青木古書店のことをほぼ全部。子供は働かせちゃいけないって法律で決まっているはずなんだけど、じいちゃんはそんなことは全く気にしなかった。さらに幸運だったのが、あたしが学校嫌いだったってこと。学校嫌いなんだから友達も先生も学校行事も放課後遊びもみんな嫌いなわけで「おじいちゃんのお手伝いしないと」って言って色々免除されるなら、多少の肉体労働なんてもう全然苦にならない。そういうわけで、あたしはお母さんより古書店に詳しい。仕入れだって帳簿付けだってできる。学校みたいに鉛筆振り回して筆算なんてしなくていいから楽々。
「マジかあ」
じいちゃんが死んで喪が明けたら、母さんがいなくなっていた。うちは母子家庭だから、父さんに連絡のしようがない(会ったことすらない)し、親戚とはずいぶん前から疎遠になっているからそっちもダメ。孤立無援とはこのことだ。まあ、母さんがいたところで何かの役に立つとは思えないけど、この国ではどんなに役たたずでも大人がいなければ何もできない。とにかく、学校行こう。帰ったら店開けて、それから考えよう。母さんがいなくなったのはこれが初めてじゃない。しょっちゅうどこぞの男のところへ行ってしばらく帰って来なかったりする。多分今回もそうだろう。心配なんてしてない。心配なのはあたしとこの本屋だ。母さんが万が一このまま帰ってこなかったら、あたしは施設でこの店は誰かの手に渡るか潰れるかだ。冗談じゃない。学校が嫌いなのに施設が好きになれるわけがない。
(なんとか誤魔化さなきゃ。母さんがいるって。通報されたらおしまいだ)
あたしは朝食を食べると「いってきます!」なんて姑息な演技をして学校へ向かった。とにかく学校に行かないと疑われる。授業を聞きながら対策を練ろう。
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