たみちゃん

4/7
前へ
/7ページ
次へ
止める暇もあらばこそ。まるで前から家を知っていたみたいに冷蔵庫からあれこれ取り出す。 「今日何食べるつもりだったの?」 「ハンバーグ」 「じゃあ、メンチにしてあげる」 「なんで?」 「揚げ物なんて普段食べないでしょ」 「まあね。店あるし」 「だから作ってあげる。明日はアジフライ」 「毎日はちょっと」 「ええー、若いんだからボリューム大事よ」 「ニキビできる」  あたしはひとを信用しない。母さんも先生もクラスメイトも。母さんはしょっちゅう嘘ついて男のところへ行くし、先生はなにも分かっていない無神経の塊だし、クラスメイトに至っては信じたらバカを見るどころの話ではない。対応を誤れば地獄が待っている。子供は純粋なんて一体誰が言いだしたのだろう。でも、たみちゃんは何故かいいやと思ってしまった。このひとなら母さんみたいに散財しないだろうし、先生みたいにお母さんもご苦労があるんだよ。綺麗な人じゃないかなんて無神経なことを言ったりしないし、隙あらば何かしてやろうなんて思わないだろう。たみちゃんならいいや。 「ねえ、今日一緒に寝ようよ」 「うん」 知らないひとが泊まるとか別の人だったら絶対拒否だけど。 「お布団、干してくるね」 「わー、ありがとねえ」 たみちゃんならいいや。正体不明のじいちゃんの友達との奇妙な共同生活が始まる。 それからたみちゃんは毎日家のことをたくさんしてくれた。特に料理がすごくて、料理のレパートリーは平凡なんだけど、信じられないほど美味しい。メンチカツは肉汁で火傷しかけるほどジューシーだったし、きつねうどんのお揚げはしみしみだったし、オムライスはふんわりとろんとろんで、ベーコンエッグはかりかりのとろーでご飯はつやんつやんだった。おやつだって、ふかふかのパンケーキとかバターの香りが鼻へ抜けるクッキーとか桜の香りいっぱいの道明寺とかとにかくすごいのだ。私は少し太ったから店の方に精出してる。デブはいじめの元だから。  でもその内、妙なことに気づいた。どの料理も平凡だから当たり前かもしれないけど、全部どこかで見たことがあるような気がする。いや、見たというより知っていたというべきだろうか。それに最近、たみちゃんがなんだか妙に疲れている。家のこと、やっぱり大変なんだろうか。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加