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「聞こえてるんでしょ。たみちゃん」
小さな稲荷神社。仕入れの帰り、じいちゃんとここでよく休んで話をした。
「たみちゃん。母さん帰ってきた。でも、うれしくない。たみちゃんがいい。話聞いてくれて話たくさんしてくれて、おいしい料理作ってくれるたみちゃんがいい。母さんを返してくれてありがとう。でもね。たみちゃん。親がいた方がいいなんて嘘だよ。親によるんだよ。あたしは違うんだよ。どうしてそこまでわからなかったの。たみちゃん」
「知ってる」
声がした。たみちゃんの声だ。
「たみちゃんどこ!?」
「探しちゃダメ。あたしの住処はここなの。だからほんの少ししかあなたとは暮らせない。ずっとはいられないの。でも、誰かしら必要なの。あなたは未成年だから」
「だけど」
「親だから尊敬しろなんて言わない。従わなくても仲良くしなくてもいい。でも、ここではやっぱり保護者が必要なの。保護ができないような保護者でも」
「……」
「お母さんが帰ってくるように恋愛成就の神様と交渉してた。でも、その前に通報されたら困るからあなたの家に来たの」
「……」
「ねえ、気をしっかり持って。あの古書店は確かにいいお店だと思う。でもね、そこに縛られたらダメよ。この間みたいにお母さんの蒸発を隠してまで店を続けようなんてダメ。あなたはもっと大人をこの国の仕組みを頼るの。あなたの先生やお母さんみたいな大人ばかりじゃないのよ」
「たみちゃん」
「ねえ、もし施設が嫌なら逃げ出しちゃえばいいのよ。それで違うところに行けばいいのどこかに執着しないで。あなたの安全と幸せを考えるの。じいちゃんががっかりするなんて今のあなたにはどうでもいいことなのよ。だってじいちゃんはもう死んでるんだもの。思い出は胸にしまえばいいのよ」
「わかった。帰るよ。たみちゃん」
あたしは涙を拭った。母さんがあんな風なのもじいちゃんが死んだのもどうしようもない。なら、自分で考えないと。無理のない、我慢しない、生き抜けるプランを。
「また話に来てもいい?」
「もちろん。返事はできないかもしれないけど」
「さよなら。たみちゃん」
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